結論から言うと、全員に共通する「一番得な月収」はありません。まず①勤務先の社会保険加入条件、②配偶者の健康保険の扶養、③配偶者の会社の家族手当を確認しましょう。税金の壁だけを見て勤務時間を決めると、想定外の社会保険料負担が生じることがあります。
この記事は、飲食店でスタッフの給与・労務管理に携わってきた立場から、パート・アルバイト本人と店長の両方に向けて整理しています。
【結論】月8万・10万・12万・15万円で何が違う?
次の表は毎月同額の給与が12か月続く場合の年収換算です。手取り額の比較ではありません。社会保険加入の要否は、年収だけでなく所定労働時間や勤務先の規模などで決まります。
| 月収(額面) | 年収換算 | まず確認したい点 |
|---|---|---|
| 8万円 | 96万円 | 週の所定労働時間、住民税の課税条件 |
| 10万円 | 120万円 | 週20時間以上か、勤務先が社会保険の適用対象か |
| 12万円 | 144万円 | 配偶者の健康保険の扶養から外れる可能性、本人の社会保険加入 |
| 15万円 | 180万円 | 本人の社会保険料、税金、配偶者の控除・家族手当への影響 |
「年収の壁」は税金と社会保険を分けて考える
本人の所得税:給与収入のみなら178万円以下が目安
2026年分の所得税では、ほかに所得がない給与所得者は年収178万円以下なら原則として所得税がかかりません。この改正は2026年12月1日施行で、2026年分から適用されます。住民税は別の仕組みで、非課税の基準も自治体・本人の条件により異なります。
配偶者の所得税の控除:136万円と169万円が一つの目安
2026年分では、給与収入のみの配偶者が136万円以下なら、納税者側が所得などの要件を満たす場合、配偶者控除の対象です。136万円を超えても配偶者特別控除があり、納税者本人の所得が一定以下なら、配偶者の給与収入169万円以下までは控除額が最高額となる場合があります。以後は段階的に縮小し、給与収入207万円未満まで対象となる場合があります。これらは税金の話であり、健康保険の扶養とは別です。
健康保険の扶養:原則130万円未満。ただし勤務先の社保加入が優先
配偶者が会社の健康保険に加入している場合、被扶養者の収入要件は原則年収130万円未満です(60歳以上などは別基準)。ただし、本人が勤務先の健康保険・厚生年金の加入要件を満たす場合は、130万円未満でも本人の社会保険加入が必要です。
2026年4月からは、一定の条件を満たす場合、雇用契約書・労働条件通知書等から見込まれる年間収入で被扶養者認定を行う取扱いが始まりました。「契約上130万円未満なら、いくら残業しても扶養のまま」という意味ではありません。契約内容が不明確な場合や他の収入がある場合などには注意が必要です。
2026年10月から「106万円の壁」はどう変わった?
2026年10月1日、短時間労働者の社会保険加入条件から月額賃金8.8万円以上という要件が撤廃されました。2026年10月現在、原則として厚生年金の被保険者数51人以上の企業で、週の所定労働時間が20時間以上、学生でないなどの要件を満たす短時間労働者が対象です。なお、通常の労働者の所定労働時間・日数の4分の3以上働く人には別の加入基準があります。
| 時期 | 短時間労働者の企業規模要件 |
|---|---|
| 2026年10月現在 | 51人以上 |
| 2027年10月〜 | 36人以上 |
| 2029年10月〜 | 21人以上 |
| 2032年10月〜 | 11人以上 |
| 2035年10月〜 | 企業規模要件を撤廃 |
※ここでの従業員数は単純なアルバイトを含む在籍人数ではなく、原則として厚生年金保険の被保険者数です。法人では法人全体で判断します。
学生アルバイトはどうなる?
19歳以上23歳未満(その年の12月31日時点)の親族には、税金上の特定親族特別控除があります。2026年分では、給与収入136万円を超えても一定範囲で親の控除が段階的に受けられます。健康保険の扶養認定では、被保険者の配偶者を除く19歳以上23歳未満の親族は原則150万円未満という基準があります。
ただし、年齢の判定日、親の会社の家族手当、本人の勤務実態による社会保険加入などは別途確認が必要です。「学生なら150万円まで絶対に大丈夫」とは言い切れません。
配偶者・親の「家族手当」を忘れずに
家族手当・扶養手当は、勤務先が独自に定める制度です。税法上の扶養を条件にする会社もあれば、健康保険の扶養を条件にする会社もあります。金額や廃止条件は会社によって異なるため、配偶者や親の就業規則・給与規程を確認してください。家族手当を失う場合、本人の給与だけでなく世帯全体の収入で比較することが大切です。
結局、いくら働くのが一番得? 判断する3ステップ
- 勤務先に確認:週の所定労働時間と、本人の健康保険・厚生年金への加入条件。
- 家族に確認:配偶者・親の健康保険の扶養認定基準と家族手当の条件。
- 年収を比較:月収だけでなく、年間の給与、社会保険料、税金、家族手当の増減を比較。将来の年金や傷病手当金など、社会保険加入の保障面も考慮する。
「130万円を超えるなら160万円が正解」「壁の1.2倍稼げば必ず得」といった万能の計算式はありません。世帯条件が違えば、損益分岐点も変わります。
【飲食店の店長向け】スタッフから相談されたときの確認項目
私自身、飲食業の現場で給与計算や社労士との確認に携わってきました。スタッフから「あと何時間働けますか?」と聞かれたときは、年収だけで即答せず、以下を確認するようにしています。
- 本人の年齢、学生かどうか
- 雇用契約上の週所定労働時間・時給・手当・賞与
- 法人全体の社会保険適用状況
- 配偶者・親の健康保険と家族手当の条件(本人から確認してもらう)
- シフト変更が一時的か、恒常的か
特に、雇用契約書に「シフト制による」とだけ記載され、労働時間が読み取れない場合、2026年4月からの契約内容による被扶養者認定の取扱いを利用できないことがあります。勤務条件を明確にしておくことが、スタッフとお店の双方を守ります。
よくある質問
Q. 月10万円なら扶養内ですか?
年収換算120万円ですが、勤務先の社会保険加入要件を満たせば本人の加入が必要です。配偶者の健康保険の扶養についても、収入以外の認定条件を確認してください。
Q. 配偶者が個人事業主なら「壁なし」ですか?
いいえ。配偶者が国民健康保険の場合、会社員の健康保険のような被扶養者制度は原則ありませんが、本人の税金や社会保険加入条件は残ります。
Q. 2026年は103万円の壁を気にしなくてよい?
所得税の仕組みは変わっていますが、健康保険の扶養、住民税、会社独自の家族手当は別の基準です。103万円だけで判断しないことが重要です。
まとめ
2026年は税金と社会保険のルールが大きく変わりました。本人の所得税は178万円、配偶者控除は136万円、健康保険の扶養は原則130万円未満、短時間労働者の社会保険は週20時間と企業規模など、それぞれ別の制度です。「月いくらが一番得か」は、まず自分の加入条件を確認してから考えましょう。
確認した公的資料
- 国税庁:パート収入はいくらまで所得税がかからないか
- 国税庁:配偶者控除
- 国税庁:配偶者特別控除
- 日本年金機構:2026年10月の賃金要件撤廃
- 日本年金機構:労働契約内容による扶養認定
- 厚生労働省:社会保険加入の要件
※2026年10月25日時点で確認できる公的情報に基づく一般的な説明です。住民税の非課税判定、健康保険組合ごとの運用、個別の社会保険加入要否、家族手当の支給条件は異なります。最終的な判断は勤務先・加入先保険者・税務署・社労士等にご確認ください。